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二〇〇九年に浙江大学が収蔵した
『左伝』、いわゆる浙江大『左伝』は盗掘された戦国楚簡であるとの前触れであったが、二〇一一年に公刊されるや中国および日本の研究者によって瞬く間に現
代の贋作による偽簡であるとの烙印を押され、浙江大『左伝』に対する学界の大勢は今や偽簡説一辺倒となっている。
ところが、浙江大
『左伝』に存する天文記事を計算で解析したところ、はからずも火星がふたご座のポルックスを侵犯する記事と計算とがピタリ合致したことから、本書では、天
文・暦法学、易学、東洋史学、思 想史学、古文書学、音韻学、古文字学など多方面から総合的な考察を行い、その結果、これが本物であるこ
とを立証・解明する。
最終的に浙江大『左伝』が紛れもなく真簡と確信できたのは、戦国時代の出土竹簡および出土金文を精査し、東方系文字最大の特色である〝科斗〟の真相を突き止めたからである。
〝科
斗〟とは東方系文字で記載された文章の中にランダムに施された〝おたまじゃくし〟状の文字形態(附帯図章)であり、それはある特定の文字にしか認められな
い。たとえば前漢武帝の頃に東方の魯地に見いだされた壁中書やその後一百数十年を経た西晋の世になって汲冢から出土した竹簡などがそれであるが、その〝科
斗〟が具体的にどのようなものであるかを、これまで現代の学者は誰一人として読み解けていなかった。言い換えれば、専家たる彼らに読み解けなかったその
〝科斗〟が浙江大『左伝』に顕然と存在するのであれば、紛れもなく浙江大『左伝』は真簡といわざるを得ない。
しかも、浙江大『左
伝』は東方系文字の用字法から〝楚簡〟ではなく、〝斉魯簡〟であるとの事実が判明した。これも文字学における重大な発見であると同時に、この浙江大『左
伝』によって、『左伝』という儒家テキストが遅くとも戦国時代中期以前から斉魯地域に存在していたことが立証され、前漢末の劉歆によって偽造されたとする
疑古派の説もここに潰えることになる。
浙江大『左伝』がもたらす学術的意義は計り知れない。